ありのすさび

この感情は有り触れたものじゃない、って、だれかに伝わればいい、

あの子。


ガードレールとかカーブミラーとか電柱が好きなのは、私だけでしょうか?って言ってたあの子。今は何を食べて生きていますか。コンクリートですか、それとも石灰ですか。
私たちとは違う音がしたあの子。今となってはそれがちょっと、小指の爪くらい羨ましくて、正直、薬指によくできるささくれくらい大嫌いだった。
電波ちゃんって呼ばれてたね、あの子。キャラクターでも何でもなくて、アレがあの子の美意識だったということに、気づかなかった私は、大馬鹿者だ。
本質ではなく、その向こう側を見ていたのだ。
あの子がほんとうに好きだったものは。
ガードレールの先の崖、カーブミラーの中の異世界、電柱に吊るされている細くて黒い紐。
あの子は赤いワンピースが、とてもよく似合っていた。

敢え無くす


嫌になることが、たまにある
なるべくニンゲンらしくあろうと、なるべく誰かに愛されるモノであろうと、そんなことばかりを考えていて
結局きみは何物にもなれずに、泣いて鳴いて哭いて、どうしようもない
涙は透明、だけれどそれは無色ではない、それが分かっている人はどれだけいるのだろうか
透明になるということは、消えるということ、でもねそれって最初から無かったってことにはならないのですよ
ないものはないしあるものはある
どうだい、子どものヘリクツみたいだろ?
それでもガードレールに頭をぶつけて死ぬよりは全然まっとうだと思うんだけど

朝が来て気づいたら夜になっていて、そしてまた朝をむかえる夜が来る、あさ、よる、あさ、よる、
だって暗い朝もあるし、明るい夜もある、それでぼくらの細胞はどうにかおかしくなっちゃうんです
きっと今は月が三〇センチの距離にある夜なんだよ
あーあ、また泣くつもりかい、勘違いのオンパレードをすこしも楽しめないからうましかって呼ばれるんじゃないの?
誰よりも自分のことが好きな癖して、誰よりも自分のことが嫌い
そんな事実は目蓋の裏に、小さく丸めてポイしてしまえ!
ただ、それでもどうしようもなくどう仕様もないときは、ぼくが隣にいてやるからさ、怖いことなんてない
その白くて、幾多の線が引かれた腕だって脚だって心だって、みんなひっくるめでぼくの所為にしてあげる
ぼくの仕事はそんなこと、所詮は損なことばっかりさ

ざっくり割れたきみであった物がいま、やっと「何か」に成れました!
なんだかきみと楽しいことが、したい!
おめでとう、ありがとう、そしてさよーなら。永訣。ちゃんちゃん♪

訳アリ物件


世界がわたしから離れてゆく
それはガラスのことりが落ちて粉砕するみたいに、もろく、朽ちて消える
パリンと鳴って
ひかりの粒に成って
だからこうして悔やむことしかできないのだ
何かのせいにできたら、誰かを痛めつけられたら、どれだけ楽になれるだろう
でもわたしは何もしない、誰も憎まない、いいこいいこ
この調子で世界征服なんてしてみちゃったり、『いいこ世界征服』!
そうして勝手に離れたことを後悔させてやればいい
世界がわたしのものになる、生きるのも死ぬのもいっしょでなかよしこよし
ことりの破片はわたしのてのひらを傷つける
皮膚を削ぎ、肉をかき分け、細い血管を斬り裂いて
ふっくらした赤い溜まりがひとつ、できあがる
それを見て、わたしは泣いた
痛みのせいではない
わたしが愛したものが繊細な凶器と成ったこと、ひどく、寂しくて
もうあの人も、あの人の大切だったことりも何処にもいない
そんなことを思い出しては、とうに塞がってしまった傷を見て、かわいそうね、と呟くの

世界の瞬く間に


たぶんあの子、わたしが好きだ
けれどわたしはあの子を好きになることは出来ない
年や、性別や、そういったもののせいではなく
ただわたしの中にはあの人がいるから

あの人には愛する人がいて
わたしにはその間にすべり込むことすら出来ない
それでもわたしに柔らかく笑いかけるあの人を忘れられずにいるのです、どうですか?
あの子もこうして胸を痛めて?

人の一生は世界が瞬きする間に終わるという
それを教えてくれたパパには感謝をしなくちゃいけないね
あなたの愛するひとり娘は、今日も、大きな穴を庇っています

わたしとあの子は似た者同士、相容れないけど、きっと似ているわたしとあの子、そして遠くにいるあの人、彼はなんにも知りやしない、酷い人、それでもこんなに好きな人

ふみだしてはならないこと、わたしが一番知っている

とある白昼夢の宴


随分浮ついた感情ね、ふわり、ふわん、不安
憎めないのは自分だけよ
ほんとは周りに疎まれて、卑しまれて、見ないふり聴こえないふり気づかないふり
ふりがとっても御上手ね

まるで肌色の壁につぶされそうな、命の終りを迎える前の小さな小さなムシのよう
あぁなんて美しい、生命は儚い

世界の片隅とか、宇宙の破片とか、そんなものは到底わかりっこないのだけれど
それらのどこかに私はいるのでしょうね、教科書通り、それが世の常ならば
生きている、格好悪くとも、死ねずにいたり涙を流したり、そうねこれがひとというもの

そうしてここまでおっきくなって今はどんなお心持ちです?
あんよも上手になった頃、ひとはひとりで生きてきた、そんな気分になっている
今日も世界の輪郭はどうにかぼやけて心地よい

背と腹がくっつく頃


背と腹が何かを話す
よく聞き取れないけどなんだかとても大切な話
そんなときぼくの身体は、熱くなる
こぽこぽ、ぐにゅぐにゅ、ぺたぺた
そんな限りなく小さい聲で彼らはなにかを話している

それは秘めやかな逢瀬の約束
まだ見ぬ相手に焦がれ焦がされ、出逢いのその日を今か今かと待っている
ぼくの内臓が煮えくり返っていたのは、もしかしたらそれのせい?
あぁ、そういうことか、そういえばここ数日ぼくの口は音無しい

ぬけがらをまとう


拾ってきたぬけがらは、少し力を込めれば容易く壊れる脆さで、
前の姿がいかに弱いものであったかを物語る
サイズはまちまち、まだぼくに合うのは見つかりません
あなたの脱いだその脆きもの、よければぼくにくださいな
ぼくはそんなに弱くないけれどひとりはやっぱり寂しいもんね

砕いて、粉にして、煎じて、呑むの
それはぼくの身体を覆いぼくの身体の一部となって
ぼくの中にあなたの全てが融けてゆく

あなたが欲しい、ただそれだけなんだけど、これっていけないこと?